「取引開始の前に、サイバー保険の加入証明書を提出してください」
新規取引の場面で、大手企業や海外のクライアントからこのように言われて戸惑う担当者が急増しています。
今まで「うちは大丈夫」と考えていた企業にとって、取引のために保険加入が必須となることは大きな変化です。しかし、取引を急ぐ場面ほど、補償内容を十分に比較できず、自社の実態とズレた設計になってしまうことがあります。
本記事では、株式会社ファーストプレイスでサイバー保険の実務に携わる専門家の知見をもとに、企業が押さえておくべきポイントを整理します。
取引でサイバー保険が求められる背景
近年、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)をはじめとするサイバー攻撃は増加傾向にあり、企業規模や業種を問わず被害が発生しています。ひとたび攻撃を受ければ、システム停止による業務中断、情報漏えいへの対応、取引先への説明責任など、企業活動に大きな影響が生じます。こうした状況を背景に、サイバーリスクは企業にとって無視できない経営リスクとして認識されるようになっています。では、なぜ企業間の取引でサイバー保険が求められるようになっているのでしょうか。主な背景を見ていきます。
取引条件としてのサイバー保険加入
近年、契約時に「MFAの必須化」やセキュリティチェックシートの提出など、取引要件としてサイバー対策の実施状況を確認する動きが強まっています。さらに、業務内容や取り扱う情報の重要度によっては、取引先からサイバー保険への加入(加入証明書の提出)を求められるケースもあります。
これは、取引先でセキュリティ事故が発生した場合に、情報漏洩やサービス停止などの影響が自社の事業にも及ぶ可能性があるためです。
例えば、顧客情報を扱う業務を委託している企業で情報漏洩が発生した場合、委託元企業にも説明対応や信用低下などの影響が及ぶことがあります。
また、物流システムや受発注システムなどがサイバー攻撃によって停止すれば、取引全体に支障が生じる可能性もあります。
そのため発注側は、事故が発生した場合に復旧対応や賠償対応まで適切に行える体制があるかを契約前に確認するようになっています。
つまり判断材料の一つとして、サイバー保険への加入が求められるケースが増えているのです。
IT企業以外でも高まるサイバーリスク意識
以前は、ITシステム開発、SaaS、プラットフォーム事業などを行うIT企業からの相談が比較的多い傾向にありました。しかし近年では、大手企業のサイバー事故の報道が増えていることや、企業のDX化・クラウド利用の拡大などを背景に、その傾向は変わりつつあります。
特に、取引先のセキュリティ要求やサプライチェーンリスクへの対応を背景に、IT企業以外の企業でもサイバー保険の検討が進んでいます。
現在では、卸売、製造、不動産、コンサルティング、運送・物流、教育、人材派遣など、幅広い業種からご相談をいただくケースが増えています。
業種を問わず、多くの企業がデジタルデータやシステムに依存して事業を行っているため、サイバーリスク対策の必要性は全業界に広がっています。
意図せず加害者となるリスク
「取引先に迷惑をかけるリスク」が大企業のニュースで知れ渡ることで可視化され、保険相談が増えています。攻撃者は、セキュリティ対策が万全な大企業を直接狙うだけではありません。
例えば、セキュリティ対策に十分なリソースを割きづらい中小企業や関連会社を標的にし、そうした企業を踏み台として、本来の標的である大企業へ侵入を試みるサイバー攻撃も確認されています。
中小企業だから狙われないということはなく、むしろ大企業との取引があることでサイバー攻撃のターゲットになるケースもあります。
その結果、自社が「被害者」になるだけでなく、取引先のシステムやサービスに影響を与えてしまうことで、結果的に取引先に損害を与える「加害者側の立場」になってしまうリスクも高まります。
【関連記事】サプライチェーン攻撃とは?中小企業が狙われる理由・実例・対策まで徹底解説
セキュリティ対策とサイバー保険をどう考えるべきか
一般的に、情報セキュリティ対策では「まず体制を整え、十分なセキュリティ対策を行ったうえでサイバー保険を検討する」という考え方がとられることが多いでしょう。しかし実際には、万全といえるセキュリティ体制を構築することは簡単ではなく、現実には不可能に近いと言えます。もし完全な対策が可能であれば、そもそもサイバー事故は起きていないはずです。
そのため、数多くの事故対応の話を見聞きしてきた保険代理店の立場から言えば、まずサイバー保険で万が一への備えを確保し、そのうえで段階的にセキュリティ対策を強化していくという進め方も、現実的なリスクマネジメントの一つだと考えています。
企業のサイバーリスク対策は「人・技術・体制・保険」
セキュリティ対策というと、WAFやEDRなどの技術的な対策を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし実際のサイバーリスク対策は、それだけで成立するものではありません。
企業のリスク管理は一般的に「人・技術・体制・保険」の4つの要素を組み合わせて考えられます。
例えば次のような役割です。
・人:従業員教育、ヒューマンエラー対策
・技術:WAF、EDR、脆弱性対策などの技術的防御
・体制:ポリシー整備、委託管理、BCPなどの運用体制
・保険:事故発生時の損害や復旧費用への備え
このうち、人・技術・体制の整備には、ツールの導入だけでなく運用ルールの整備や教育なども必要となるため、一定の時間とコストがかかります。
そのため実務では、これらの対策を段階的に整備しながら、事故発生時の経済的リスクに備える手段としてサイバー保険を検討する企業もあります。
セキュリティ対策と保険は、どちらか一方でリスクを防げるものではありません。
現場でどれだけ対策を積み上げても、「どうしても防ぎきれないリスク(残存リスク)」は必ず残ります。
この残されたリスクをどう引き受け、万が一の際に会社をどう守るべきかは経営判断の領域に入ります。
サイバーリスクは経営判断が問われる課題
セキュリティ対策は、情報システム部門だけの問題ではありません。サイバー攻撃は自社が被害を受けるだけでなく、取引先を巻き込む「加害者」になるリスクがある事故であり、賠償金や社会的信用の失墜は、事業継続を揺るがす甚大なインパクトを持っています。 会社法では、取締役に「善管注意義務(善良な管理者の注意義務)」が課されており、企業のリスク管理体制を適切に整備する責任があります。
これほどの重大なリスクを放置することは、経営者の「善管注意義務」に抵触する恐れがあり、経営判断の責任が問われる可能性があります。
サイバー攻撃の被害に遭った場合、企業は被害者であるだけでなく、情報漏洩やサービス停止によって顧客や取引先に損害を与える「加害者」となる可能性もあります。例えば、個人情報の漏洩、取引先データの流出、システム停止によるサービス停止などのケースでは、企業に損害賠償責任が生じることがあります。
さらに、社内で対策や保険加入の必要性が指摘されていたにもかかわらず対応を見送った結果、大きな事故が発生した場合には、経営判断の妥当性が問われる可能性があります。上場企業では株主代表訴訟の形で責任追及が行われるケースが知られていますが、未上場企業であっても、株主や出資者、取引先などから経営管理体制の不備を指摘される可能性があります。
このようにサイバーリスクへの対応は、企業を守るためだけでなく、経営者自身のリスク管理という側面も持っています。
【関連記事】情報セキュリティ十大トレンド2026発表:JASAが示す経営リスクの現在地
どれだけ対策しても、人のミスは避けられない
OSのアップデートなど、最低限の対策を行うことはもちろん重要です。しかし、どれだけ対策を重ねても、対策をしていても防げないケース(ゼロデイ攻撃やヒューマンエラー事故等)を完全にゼロにすることは困難です。
人間はミスをするものであるという前提に立ち、「防ぐ」だけでなく、「起きてしまったときにどう備えるか」も含めて考えることが、現実的なリスクマネジメントだといえるでしょう。
そのために最後の砦としてサイバー保険が必要なのです。
【関連記事】従業員のセキュリティリテラシーを高めるには?本当に効果的な情報セキュリティ教育のポイントを解説
サイバー事故発生時の窓口としても機能してくれる
サイバー保険を加入しておくと、サイバー事故発生時の「窓口」として機能してくれる点も大きなメリットです。サイバーインシデントが発生した際、自社だけで原因調査や復旧の手配を行うのは容易ではありません。
サイバー保険に加入していれば、保険会社を通じてフォレンジック調査会社や復旧支援の専門家を紹介してもらえるケースがあります。
状況の整理や初動対応の判断が求められる緊急時に、適切な対応につながる体制があることは企業にとって大きな安心材料になります。
実務上は、事故対応が長引いて被害が拡大すれば、結果として保険金の支払額も大きくなる可能性があります。
そのため、保険会社側にも、できるだけ早期に状況を落ち着かせ、被害を最小限に抑えたいという動機が働きます。
こうした背景から、保険会社が紹介する専門業者による対応は、企業側・保険会社側の双方にとって合理的な仕組みだといえるでしょう。
サイバー保険は具体的に何を補償してくれるのか
サイバー保険の補償内容は保険会社やプランによって異なりますが、基本的な補償の考え方は共通しています。補償範囲の詳しい内容については、以下の記事で整理しています。
【関連記事】サイバー保険の補償範囲と選び方を解説
ここでは、実務の観点から「サイバー事故が発生した際に企業にどのような費用が発生し、それに対してサイバー保険がどのように機能するのか」という点を整理します。
実務上、サイバー保険で特に重要となる補償は大きく次の3つです。
①事故対応費用(調査・復旧・危機対応など)
②損害賠償責任(取引先・第三者への賠償)
③業務停止による利益損失(特約)
以下では、この3つの補償が実際の事故でどのように機能するのかを見ていきます。
①事故対応費用(調査・復旧・危機対応など)
事故対応費用は、サイバー事故発生後に必要な一連の対応にかかる費用を幅広く補償します。具体的には、以下のような費用が発生することがあります。
・フォレンジック調査(被害範囲や侵入経路の特定)
・PCやシステムの復旧や再構築
・外部専門会社への委託費用
・問い合わせ対応のためのコールセンター設置
・広報対応や危機管理対応
特にランサムウェアなどのサイバー攻撃では、システムの復旧や調査、外部専門家への対応費用が大きく膨らむことがあるため、中小企業がこうした被害を単独で負担することは困難です。
②損害賠償責任(取引先・第三者への賠償)
サイバー事故の影響は、自社だけでなく取引先や顧客にも及びます。例えば、顧客データの情報漏洩が発生した場合でも、被害者への損害賠償請求や訴訟対応が必要になるケースもあります。特にサプライチェーンの中核となる企業では、事故の影響が連鎖的に広がり、結果として賠償額が大きくなりがちです。
中小企業にとっては、事故そのものよりも、こうした賠償責任が資金繰りや信用に大きな影響を与えるケースも少なくありません。
サイバー保険は、こうした対外的な責任が発生した際に、企業単独では負担しきれない賠償リスクを補償します。
③業務停止による利益損失(特約)
サイバー事故により業務が停止すると、売上が立たず、本来得られたはずの利益が失われることがあります。サイバー保険にはこの利益損失費用を補填する性質も持ち合わせていますが、利益損失補償は多くの保険会社では特約(オプション)として位置づけられており、標準補償ではないことが多いです。
そのため、まずは「事故対応費用」と「損害賠償責任」の補償をベースに考えたうえで、自社の停止許容時間(どの程度の業務停止で資金繰りや信用に影響が出るのか)を踏まえ、必要に応じて利益損失補償を付帯するかを検討することになります。
付帯サービス
サイバー保険の価値は、保険金の支払いだけではありません。特に中小企業にとっては、インシデント対応支援や平時のサイバーリスク対策支援といった「付帯サービス」も重要です。
インシデント発生時のサービスとしては、24時間365日対応の緊急ヘルプデスク、フォレンジック調査、法的アドバイス、広報対応などが提供される場合があります。
また近年では、事故発生時だけでなく平時に利用できるサービスが付帯される保険商品も増えています。
例えば、社内のセキュリティ診断、標的型メール攻撃訓練、従業員向けの情報セキュリティ教育コンテンツの提供などです。
これらの付帯サービスには単独契約すると数十万円かかる内容が含まれることもあるため、保険選びの重要な判断材料になります。
サービス内容、利用条件、回数制限、追加費用の有無などを確認し、他社商品と比較することが重要です。
IT事業者はIT業務事故の補償も確認しておく
IT関連の業務を行っている企業(他社のシステムを預かる・作る企業)の場合、一般的なサイバー保険だけではカバーされないリスクがある点に注意が必要です。IT事業者の皆さまには業務遂行にあたり、IT業務用サイバー保険の導入で万が一に備えることをおすすめします。
IT業務のサイバー事故例
①顧客の在庫管理システムのカスタマイズ作業中、在庫データを消去してしまった。データの復元費用につき損害賠償請求された。
②.顧客のオンラインストレージで生じた設定ミスにより、セキュアなデータが閲覧できる状況になっていた。一部の顧客より、損害相当分の損害賠償請求を受けた。
IT業務に携わる場合は、IT業務専用のサイバー保険(損害賠償保険)の導入でリスクに備える必要があるため、下記ページをご参照ください。
IT業務用サイバー保険
【PR】サイバー保険を代理店に相談する際のチェックポイント
サイバー保険は「どの保険会社を選ぶか」だけでなく、どの代理店と補償設計を進めるかによって、最終的な補償内容や条件が大きく変わることがあります。そのため、相談先を検討する際には、以下の3つの視点を持っているかを確認することが重要です。
1. 最新の引き受けルールと専門知識を理解しているか
サイバー保険の引き受け条件やガイドラインは、事故の傾向や損害動向を踏まえて定期的に見直されています。そのため、最新の引き受け基準を理解していない場合、適切な条件で契約できないことや、見積そのものが通らないケースもあります。
また、サイバー保険は保険会社ごとに補償範囲や設計の考え方が異なります。
日常的にサイバー保険を扱っている代理店であれば、最新の条件や設計の選択肢を踏まえた提案が可能になります。
確認したい視点
・最新の審査基準や引き受けルールを把握しているか
・サイバー保険を継続的に取り扱っている代理店か
・補償設計や条件の違いを説明できる専門知識があるか
2. 事業リスクの整理から補償設計まで伴走できるか
サイバー保険を検討する際には、まず「自社にとってどのような事故が最も大きな影響を与えるのか」を整理することが重要です。例えば企業によって、重視すべきリスクは大きく異なります。
・情報漏えいによる損害賠償
・サイバー攻撃発生時の調査・復旧などの事故対応費用
・ITサービス提供における不具合や障害による賠償責任
このようなリスクを整理したうえで補償を設計しなければ、必要以上に補償を付けすぎたり、逆に重要な補償が不足したりする可能性があります。
さらに、サイバー保険では免責金額(自己負担額)や補償限度額などを調整することで、保険料とのバランスを調整できる場合があります。
企業のリスク特性に合わせて、補償項目ごとの配分を設計することも重要です。
確認したい視点
・自社の事業内容やビジネスモデルを理解したうえでリスク整理できるか
・単なる見積提示ではなく、補償設計の考え方を説明できるか
・保険会社との条件調整(免責金額や補償配分など)まで対応できるか
3. 複数の保険会社を比較し、最適な選択肢を提示できるか
サイバー保険は、保険会社によって補償内容、強い業種、保険料の算出方法などが異なります。代理店によっては取り扱う保険会社が限られており、提案できる選択肢が少ない場合もあります。
複数の保険会社の条件を比較したうえで提案できるかどうかは、相談先を判断する重要なポイントになります。
確認したい視点
・複数の保険会社の商品を比較して提案できるか
・補償内容や保険料の違いをわかりやすく説明できるか
・自社のリスクに合った保険会社を選定できるか
サイバー保険は、単に商品を選ぶだけでなく、自社のリスクを整理しながら補償設計を行うことが重要です。
そのため、保険商品そのものだけでなく、「どのような視点で補償設計を進めてくれるか」という相談先の姿勢も確認しておくとよいでしょう。
ファーストプレイスでは、事業内容やリスクの洗い出しから一緒に整理し、必要な補償範囲や優先順位を確認しながら、保険会社との調整まで含めた設計支援を行っています。
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