
サイバー攻撃が巧妙化するなかで、ディレクトリトラバーサルは企業サイトやシステムに潜む重大な脆弱性として知られています。
本記事では、ディレクトリトラバーサル攻撃の仕組みと、具体的な防御策を解説しつつ、万が一の被害に備える方法をご紹介します。
ディレクトリトラバーサル攻撃とは
ディレクトリトラバーサル攻撃とは、Webアプリケーションやサーバーが受け取るファイルパスの入力を不正に操作し、通常はアクセスできないファイルやフォルダに侵入する攻撃手法です。たとえば、本来は外部からアクエスできないはずの設定ファイルや機密情報が、悪意あるリクエストによって読み取られたり、改ざんされたりする危険があります。
このようなリスクが生じる背景には、ユーザー入力の検証不足や、アクセス制御の設定ミスといった開発側のセキュリティ対策の不備が存在します。
ディレクトリというのは、コンピュータ上でファイルを分類して格納するフォルダのようなものです。 「ファイルパス」とは、ファイルを特定するために指定する「ファイルの住所」であり、攻撃者はこのパスを巧妙に操作して、本来立ち入れない領域へ入り込もうとします。
絶対パスと相対パスの違い
パスとは、コンピュータ上で特定のファイルがどこにあるかを示す「ファイルの住所」のようなものです。このパスには、大きく分けて2つの指定方法があります。
絶対パス
パソコンやサーバー内の“地図”の一番上から、目的のファイルまでの道のりをすべて書き出す方法です。先頭からすべてのディレクトリ階層を示すため、どこからアクセスしても、同じ“住所”をたどり、ファイルへたどり着くことができます。
相対パス
今いる場所(フォルダ)から見て、「上に行く」「横に移動する」といった相対的な位置でファイルを指定する方法です。「今いる場所から2階層上にある“config”フォルダに移動する」という意味になります。
この相対パスで使われる「../」という記号は、「ひとつ上の階層に移動する」ことを意味し、ディレクトリトラバーサル攻撃ではこの仕組みが多用されます。
ディレクトリトラバーサルが引き起こす被害とリスク
ディレクトリトラバーサル攻撃による最大の脅威は、サーバー内部に隠しているはずの機密情報が流出することです。たとえばユーザーの個人情報が保存されたデータベースの設定ファイルや、サービス運用に必要なアクセスキーが含まれる設定用ファイルなどに不正アクセスされれば、情報漏えいやさらなる攻撃の足掛かりを与えてしまいます。
最悪の場合、ハッカーがサーバー内部の脆弱なスクリプトを経由して任意のコードを実行し、サイトの改ざんやサービスの停止、あるいはランサムウェア感染に繋げられるリスクも否定できません。
【狙われる可能性がある重要データ】
・データベース設定ファイル(接続情報やパスワードを含む)
・ユーザーの個人情報ファイル(氏名・住所・メールアドレスなど)
・サービス運用に不可欠なアクセスキー(外部サービスとの認証情報)
・ログファイルや開発用スクリプト(内部の動作や構造が把握される)
【被害リスク例】
・システムやサイトのダウン(売上機会の損失)
・個人情報や機密情報の漏えい(法的責任や信頼の失墜)
・Webサイトの改ざん・削除(企業ブランドの毀損)
・自社アカウントの乗っ取り(管理権限の喪失)
・顧客アカウントの乗っ取り(なりすまし被害によるクレーム・補償)
・ランサムウェア感染(データが暗号化され業務が停止)
一見、ディレクトリ構造が読み取られただけでは大きな被害はないように思われがちですが、実際にはそこから複数の攻撃が連鎖的に展開し、情報漏えい、業務停止、信用失墜といった多大な経済的・社会的ダメージにつながる危険性があります。
サイバー攻撃による被害額は、下記記事をお読みください。
▼サイバー攻撃の企業への被害額は?億単位もありえる被害額|2024年最新版を公開
ディレクトリトラバーサルの被害事例
ここでは、過去に発生したディレクトリトラバーサル攻撃の具体的な事例を通して、その危険性と影響の大きさを紹介します。こうした被害事例を確認することで、自社のセキュリティ環境に同様の脆弱性が潜んでいないかを見直すきっかけとなり、被害が起こったときの影響範囲や攻撃者の手口を理解して、より効果的な対策を検討することができます。
大手電機メーカーの機密情報の流出
大手電機メーカーでは、企業の信用を左右するコア技術や特許情報など高度なノウハウが日々やり取りされています。製品開発のための設計図や次世代モデルの試作品データ、提携先との契約書といった機密度の高いファイルがサーバー上で管理されていましたが、そこにディレクトリトラバーサルの脆弱性が潜んでいたため、攻撃者に機密ファイルを読み取られたとされる事例があります。外部に漏れてはならない戦略資料や顧客情報が盗み出され、企業イメージの失墜だけでなく競合他社とのビジネス競争において大きな痛手を被ったと報告されました。 この例は、ディレクトリトラバーサル攻撃がいかに広範囲に影響を与え得るかを示す典型例と言えます。
公的協会における個人情報漏えい
とあるソフトウェア関連の公的協会でも、かつてディレクトリトラバーサルが原因とみられるセキュリティ事故が発生したと報じられています。協会のウェブサイトには、会員や協力企業などの連絡先や情報が蓄積されていましたが、攻撃者は意図的に特定のディレクトリへアクセスするリクエストを送り、通常は閲覧不可能な領域に保管されていたファイルを直接取得したとされています。
このように協会や団体などの公益目的を担う組織は、多くの個人データや内部資料を保有している一方、必ずしも専門的なセキュリティ担当部署を常設しているとは限りません。その結果、ウェブアプリケーションのセキュリティを後回しにしてしまい、いつのまにか大きな脆弱性を抱えた状態で運用を続けてしまうというリスクが生じます。
今回のケースでは、多数の個人情報が漏えいしたことで社会的信用の失墜と利用者からの批判を浴び、データ保護の重要性が大きく再認識されたとされています。
大手セキュリティベンダーの一部製品に対する脆弱性発覚
セキュリティ製品を提供するベンダー自身が、ディレクトリトラバーサルの脆弱性を抱えていた事例は、多くの利用者に衝撃を与えました。本来ならばサイバー攻撃からシステムを守る役割を担う製品に、深刻な欠陥があったのです。この欠陥を突かれれば、ユーザーが導入しているセキュリティソフトウェアの設定ファイルやログファイル、さらには管理者権限に関するデータまでもが不正に読み取られるリスクがあったといいます。
この問題が明るみに出た際、ベンダーは迅速にパッチを提供して対応にあたりましたが、それまでの間にどれほどのユーザーが危険にさらされていたのかは定かではありません。
しかしながら、この一件はディレクトリトラバーサル攻撃が決して古い攻撃手法ではなく、最新のシステムやセキュリティツールにも潜む可能性があることを示唆しています。
ディレクトリトラバーサルを防ぐための具体的対策
ディレクトリトラバーサル攻撃を回避するためには、まずコードレベルでの根本的な防御と、運用時における保険的な対策の両輪を整える必要があります。たとえば、パラメータチェックを厳格化し、不正なパス指定を排除することは第一の対策となりますが、さらにサーバー側のアクセス権限管理やWAFを導入して多層的に防御することで、万一の抜け道をふさぐ効果が期待できます。ここからは主な対策について、いくつか解説します。
根本的対策:パラメータのバリデーションとディレクトリ制限
ユーザーの入力を信頼せずに厳密に検証することが、ディレクトリトラバーサル対策の出発点です。たとえば、ファイル名を引数として受け取る場合には、入力された文字列が「../」などの相対パス表記を含んでいないかをチェックしたり、使用可能な文字を「英数字やアンダースコア、ハイフンなど」に限定することで、不要な入力を排除したりすることが効果的です。
これは「ホワイトリスト方式のバリデーション」と呼ばれ、安全と認めた文字種だけを明示的に許可し、それ以外はすべて拒否する手法です。ブラックリスト方式のように危険なパターンを列挙するのではなく、「通していいものだけ」を決めることで、未知の攻撃手法にも強い防御が可能となります。
さらに、ディレクトリの移動をそもそも許可しない設計にすることで、攻撃者がルートディレクトリへ遡る余地を与えない方法もあります。
補助的対策:権限設定の最適化・非公開ファイルの管理
コードレベルのバリデーションを行っていても、万が一の見落としや脆弱性を攻撃者に突かれる可能性はゼロにはなりません。そこで補助的な対策として重要になるのが、サーバー側の権限設定や非公開ファイルの管理方法です。
たとえば、公開用のフォルダと内部システム用のフォルダを厳格に分け、Webサーバーのユーザー権限を必要最小限に絞ることで、攻撃者が相対パスを用いて遡ってきたとしても容易に機密ファイルに到達できないようにするのです。
また、WordPressなどのCMSでは設定ファイル(wp-config.php)の保護が特に重要です。
このファイルにデータベース情報や管理者アカウントに関する情報が記載されているため、仮に外部から閲覧されればシステム全体が乗っ取られる恐れがあります。
したがって、サーバーのディレクトリ構成を見直し、wp-config.phpを公開フォルダから切り離したり、.htaccessによるアクセス制御を追加したりして、物理的にもロジック的にも非公開ファイルを守る工夫が欠かせません。
監視・防御ツールの導入(WAFや脆弱性診断ツール)
ディレクトリトラバーサル攻撃をはじめとする外部からの不正アクセスを常に監視する仕組みとして、WAF(Web Application Firewall)の導入が挙げられます。WAFは、悪意のあるリクエストを検知しブロックする機能を持っており、脆弱性が残っている場合でもある程度の防御効果が期待できます。
特に中小企業においては、すべての開発プロセスに専任のセキュリティエンジニアが関わることは難しいため、WAFのような製品やサービスを活用することで人的リソースの不足を補うことができます。 また、定期的に脆弱性診断ツールを使ってシステムをチェックすることも、ディレクトリトラバーサルの予防策として有効です。
ツールが疑わしいパス操作を検知したり、設定ファイルが不適切に公開されていないかを自動で洗い出したりしてくれるため、目視や手動テストでは見逃しがちな部分までカバーできます。
不正アクセス対策は、下記記事をお読みください。
▼不正アクセス対策とは?企業が取るべき対策の基本&実践ポイントを解説
万が一の被害に備える保険と専門家への相談
ディレクトリトラバーサル攻撃を含むサイバー攻撃の脅威は日々複雑化しており、多くの企業を取り巻いています。こうした状況に対応するためには、技術的なセキュリティ対策を強化するだけでなく、万が一被害を受けた際の損失を最小限に抑える「サイバー保険」の活用も検討する必要があります。サイバー保険に加入していると、不正アクセスによる情報漏洩やサービス停止といった事故の発生時に、調査費用や賠償金の一部が補償対象となるケースが多いため、事後対応における企業側の負担を軽減できるというメリットが得られます。
さらに、サイバー保険の内容によっては、被害発生時の初動支援や法的助言といった専門家のサポートを受けられるため、企業規模やリスク分析に応じて最適な保険商品を選ぶことが重要です。
企業は社会的責任をもって適切なセキュリティ対策を取り、サイバー攻撃に備えなければなりません。
サイバー保険に加入しておけば、万が一の際に生じる多大な経済的損失や労力から自社と従業員を守ることができます。この機会に検討してみてください。
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